複合災害時の避難に関する講演会

原子力防災について、原子力規制委員会初代委員長を務めた田中俊一様による講演会でした。複合災害というのは、自然災害と原子力災害の同時発生のことです。今日の講演会にはおよそ280人の参加がありました。講師の田中様が所属していた原子力規制委員会は東日本大震災の時の福島第一原発事故後に発足した機関です。以下は講演を聞いて印象に残っていることです。

  • 原子力事故には2種類ある。一つは臨界事故、もう一つは冷却材喪失事故。臨界事故はチェルノブイリ事故のようなもので、福島の1F事故は冷却材喪失事故。
  • 思想信条とは別物として、水と食料とエネルギーは国が確保すすべきものである。
  • 原子力発電をなくすことを目的に規制委員会がつくられたわけではない。
  • 先進国の中で核燃料サイクル(使用済み燃料のリサイクル)を回すことを考えているのは日本だけ。
  • 複合災害の時は、原子力災害を忘れて命を守る行動をとってほしい。複合災害時には、まず放射線被ばく防止以外の対応を優先し、生命の安全確保を図ることが防災・避難計画の基本である。
  • 原子力災害の一番怖いところは、怖いという気持ち・不安と恐怖にかられること。
  • 1F事故による放射線被ばくによりサイト内の従業者を含めて健康影響はない。被ばくにより死亡した人はいない。
  • 原子力の事故時に無理な避難をしない。病院や介護姿勢などは施設内に留まることを原則とする。PAZ内の一般住民はあらかじめ決められた施設に退避。UPZ内の住民は自宅ないし最寄りの適切な施設に屋内退避することを原則とする。
  • 地震や津波と原子力事故が重なる複合災害時には、屋内退避が原則であっても、家屋倒壊の危険が大きいならば、そこに留まるべきではない。放射線被ばくによる健康被害は生じない。
  • 放射線に対する不安や誤解を払拭するためには、放射線被ばくについての正確な知識が大切で、原子力災害の被害を防止するために最も重要です。
  • 福島の復興が進まない一つの要因は。国が決めた合理性のない放射線防護基準(避難解除の基準・食品流通基準)である。
  • 安全の規制だけではふるさとを守れない。
  • これから1Fのような事故が起こったとしても、環境に放射線をばらまくようなことにはならない。

講演の後、質疑が交わされましたが、質疑をする方の中には講演内容とは違うご自身の主義主張を述べる方もいました。原発反対を主張をする方々にとってはこの講演で出された事実を認めることはできないと感じたのかもしれません。そのような方々の気持ちがわからないでもありませんが、講演会の後の質疑を自分の土俵で語られてもそれを聞いている人は共感できません。それくらい原発事故後の研究を専門的にしてきた方の言葉には力があったということです。事故は起こるかもしれないものですから、それに備えておくことは必要ですし、万が一を考えた避難などを議論することは大切だと思います。しかし、必要以上にあるいは根拠のないことを取り上げて市民の不安をあおるような発言はいかがなものかと思います。

講師の田中様ありがとうございました。

投稿者: shigeno